ジゼル@マリインスキー劇場

ロシアバレエファンのみなさん、こんにちは!
現在、日本はマリインスキー来日公演の真っ只中で盛り上がっている最中だと思いますが、留守を守る本場マリインスキー劇場の盛り上がり具合も負けていませんよ!
という訳で本日はつい先ほど鑑賞したばかりのジゼルを取り上げたいと思います。

【鑑賞作品情報】 ※劇場英語版サイトからも情報をご覧いただけます。
●作品:ジゼル
●鑑賞日:2018年12月5日
●主なキャスト:
・ジゼル:オレシア・ノヴィコワ(Olesya Novikova
・アルブレヒト:アレクセイ・ティモフェエフ(Alexei Timofeyev
・ヒラリオン:ユーリー・スメカロフ(Yuri Smekalov
・ミルタ:タチアナ・トカチェンコ(Tatiana Tkachenko
・ペザント:ヴラダ・ボロドゥーリナ(Vlada Borodulina)、ヤロスラフ・プシコフ(Yaroslav Pushkov)
●音楽:A.アダン
●振付:J.コラーリ、J.ペロー、M.プティパ
●同劇場初演:1942年12月18日
●あらすじ:
第一幕:
アルブレヒトは伯爵である身分を隠し、村娘ジゼルと恋に落ちる。一方、ジゼルに想いを寄せる森番ヒラリオンは懸命にアルブレヒトが村の青年でないことを説明するがジゼルは聞く耳を持たない。一人取り残されたヒラリオンはアルブレヒトが貴族である証の剣を小屋で見つける。
程なくして、村にはクーランド公爵とアルブレヒトの婚約者であり、公爵の娘であるバチルドを引き連れた貴族たちが狩りの道中に休憩するため訪れる。愛らしいジゼルを気に入ったバチルドは彼女に自分の首飾りをプレゼントする。公爵とバチルドはジゼルの家で休憩することにし、出発する際はジゼルの家の壁にかけた角笛で合図するように家来に命ずる。
村では収穫を祝う村人たちが楽しそうに踊り、ジゼルとアルブレヒトも共に楽しい時を過ごす。そこへヒラリオンが現れ、角笛を吹き貴族たちとアルブレヒトを鉢合わせにする。そして、アルブレヒトは身分を隠してジゼルに近寄り、実は婚約者までいることを暴く。完全に気が動転したジゼルは元々の持病と相まって錯乱の中息絶える。
第二幕:
ジゼルの墓に訪れるヒラリオン。婚礼前に亡くなった娘たちの霊ウィリに取り囲まれる。彼女たちは夜更けに墓に近づく男たちを息絶えるまで踊らせるのである。
ウィリの女王ミルタはジゼルも仲間に入れるため墓から彼女の霊を呼び起こす。
そこへアルブレヒトがジゼルを弔いに墓に訪れる。後悔の念に苛まれるアルブレヒトの姿に偽りのない自分への愛を感じたジゼルはウィリたちの目につかないようにアルブレヒトを森の奥へかくまう。
一方、ウィリたちに見つかったヒラリオンは踊らされ続け、最後は力尽き、ウィリたちに湖へ投げ落とされる。ウィリに見つかったアルブレヒトにも同じ運命が待っていた。しかし、ジゼルはミルタに許しを請い、二人はひたすら踊り続け、ついに夜が明ける。夜明けを告げる鐘の音と共にウィリたちは姿を消し、朝の光を浴びてジゼルも姿を消し、アルブレヒトに永遠の別れを告げる。

【感想】
●作品:
前回の記事でも取り上げた「ラ・シルフィード」と共に主人公の「死」がテーマとなっている作品です。「ラ・シルフィード」と「ジゼル」の大きな違いは、前者はジェイムズに邪険にされたマッジの恨みとその陰謀にまんまとはまってしまったジェイムズの愚かさによりシルフィードが命を落とすという救いようのない悲劇作品。一方で、後者の「ジゼル」は、一幕目でアルブレヒトに裏切られ命を落とすものの、二幕目で彼の一途な想いに心打たれ、そんな彼を許し、そしてアルブレヒトをウィリたちから助けるという永遠の愛をテーマに掲げています。すでにジゼルは死んでしまっているので、もう二度とアルブレヒトと一緒になることはできませんが、「真実の愛による死」だったという点では前者のような誰かさんの愚かさによって生じた完全なる悲劇とは一線を画すと考えます。それでもやはりジゼルはいつ観ても悲し過ぎますね・・・。
そして、前回の記事にも書きましたが、「ラ・シルフィード」と並び「バレエ・ブラン(白のバレエ)」に分類されるこの作品、特に二幕目のコールドバレエの舞は圧巻です。一幕目の村人たちの楽し気な踊りとのコントラストも見どころの一つです。
ところで、コールドと言えば、マリインスキーバレエ団来日公演でコールドの度肝を抜く質の高さに驚愕しているツイートを多々見かけました。皆さんもお気づきの通り、何といってもマリインスキー最大の武器はこのコールドバレエと言っても過言ではないでしょう!一寸たりとも狂わぬマリインスキーのコールドを堪能できる作品がこの「ジゼル」だということです。今回の来日公演では残念ながらジゼルは入っていませんが、「ショピニアーナ」(終わってしましましたが)や「白鳥の湖」などで存分に感じられるのではないでしょうか。

話を再びジゼルに戻しますが、この作品は元々フランスで誕生した「ロマンティック・バレエ」というジャンルに分類される作品です。振り付けは今のものとは異なり、ロマンティック・バレエというやや単調な作品に飽き始めてきたフランス聴衆の声と相まって19世紀中頃、本国での上演が途絶えました。そんなジゼルを消滅の危機から救ったのが皆さんお馴染みのマリウス・プティパです。数回の改定を経て「ジゼル」は本国聴衆をも仰天させるような形に生まれ変わり、今なお多くのバレエ団で上演される傑作バレエの一つとなっています。

●ダンサー:ミス・ジゼル
・ノヴィコワ:彼女のジゼルを見るのは今回で二回目ですが、初めて見た時と同様、今回も感動仕切りでした。全世界のバレリーナの中で彼女ほどジゼルそのものであるダンサーを筆者は観たことがありません。と言っても全世界のバレリーナを見たわけではありませんが(笑)
大げさに聞こえるかもしれませんが、それぐらい凄い。もはやハマリ役とかそんな単純な表現では言い表せないぐらい、彼女にはジゼルのすべてが詰まっています。確たるものは彼女の役の解釈力、そしてそれを表現できるだけの熟練されたテクニック。例えば、一幕目でアルブレヒトと踊っている最中、ジゼルの心臓の弱さを匂わせる場面がいくつかありますが、多くのダンサーがその後再び元気に踊り出します。一方、ノヴィコワの場合、確かに元気に踊り出すのですが、どことなく病弱さを残しながら終始踊っている訳です。出来そうでなかなか出来ないニュアンスの出し方だと思います。また、アルブレヒトに婚約者がいることがばれるシーン。通常は割と強く攻めるような感じでアルブレヒトに駆け寄り真意を迫る。ノヴィコワの場合、そこまで強く言い寄らず、一見控えめに見えます。しかし、心優しいジゼルはどこかでアルブレヒトを信じたいという想いとあまりのショックに傷心気味なのとが相まって、強く攻められないという絶妙なとらえ方をしている訳です。その後のジゼルが錯乱して死す場面も同情の域を超える程の可哀そうな姿に村人その1になった気分で観客を引き込みます。
本来ジゼルとはこうあるべきだというノヴィコワの強い想いが彼女のジゼルから感じられました。
今回の日本公演のメンバーには入っていなくて残念ですが、ぜひ機会がありましたら一生に一度は観ておくべきジゼルではないかと思います!
・ティモフェエフ:ごめんなさん、彼はどうしてもペザントをやっていた頃の印象が強すぎて、村人から伯爵って身分が変わりすぎて・・・。ティモフェエフに罪はない、筆者の硬い頭の問題です(笑) 二幕目のヴァリエーションなどとてもしっかり踊っていましたが、死ぬまで踊らされる=踊り疲れている(今にも死にそう)という感じがあまり見受けられず、きれいに踊るのは良いことですが、ちょっと元気すぎたかな・・・若さゆえかな(笑)

●本日の注目ダンサー:ダリア・イオノヴァ(Daria Ionova)、アナスタシア・ヌイキナ(Anastasia Nuikina
現在、日本公演で大活躍中のマリア・ホーレワ(Maria Khoreva)と同様、今年ワガノワバレエアカデミーを卒業したばかりの期待の新星です。今回は二幕目のドゥ・ウィリに配役され、ヌイキナはこの日がデビューでした。しなやかかつ美しく、どこか余裕さえも感じる二人の舞に酔いしれました。そして、この世代には他にも恐ろしく素晴らしいダンサーがたくさんいます。この日は配役されていませんが、マリア・ブラーノワ(Maria Bulanova)がすでにミルタ役でデビューを果たしています。彼女に至ってはすでに貫禄さえ感じます。そして、同じく今年ワガノワから入団した安齋織音さんも別の日ではありますが、ドゥ・ウィリのズルマ役でデビューを果たしています。彼女は驚異的なスタイルの良さが魅力の一つで、日本人にも関わらず、しかも長身が多いマリインスキーで「白鳥の湖」で大きな四羽の白鳥に配役されるという快挙を成し遂げました。その他にもたくさんの役(ソロ)で起用されています。
彼女たちは今回の来日公演メンバーには入っていませんが、次回の来日公演で確実に台風の目になるのではないかと思います。これからの彼女たちの活躍に目が離せませんね!

●筆者のつぶやき:イケメンの無駄遣い(笑)
今回の日本公演のメンバーからは直前で変更となってしまったスメカロフですが、本日は彼の十八番の一つであるヒラリオンとして出演していました。やはりスメカロフがいるだけで物語の重厚さと説得力が増すとつくづく感じながら、ふと思いました。スメカロフっていつも振られるか、死ぬかという役ばかりではないか。バレエ作品とはそういうものなのでしょうがないのですが、可哀そうじゃないか、あんなにイケメンなのに!ただ、やはりスメカロフのヒラリオンは唯一無二の存在なのでイケメンの無駄遣いだろうと彼にやってもらうしかないのだなと勝手に自己完結しました(笑)

【本日の写真】カーテンコール
※この他の写真はEliska’s Instagramに載せます。

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